1.この季節、心がざわつくのはあなただけではない
カレンダーが残り数枚になり、街にクリスマスの浮かれた喧騒や、お正月の準備を急かすようなBGMが流れ始めると、ふと胸の奥がチリチリと痛むような感覚を覚えることはないでしょうか。
「今年も、何も変わらなかったな」 「やりたかったこと、結局ひとつも手をつけていない気がする」
スーパーの入り口にお正月飾りが並び、テレビの特番が「今年輝いた人」を次々に映し出す。周囲が「終わり」と「始まり」を意識して、どこか誇らしげに、あるいは慌ただしく動き出す中で、自分だけが重い足取りのまま、霧の中に立ち尽くしているような感覚。それは、冬の冷たい夜風よりもずっと鋭く、私たちの心に深く入り込んできます。
本来、12月31日と1月1日の間には、物理的な大きな断絶があるわけではありません。ただ一日が過ぎ、太陽が昇るだけのこと。それなのに、私たちはこの「年末」という区切りに対して、まるで人生の審判を下されるような、特有の重圧を感じてしまいます。
SNSを開けば、「今年のベストバイ」「2025年の振り返り」といった見出しが踊り、自分自身のこの一年がいかに空虚であったかを突きつけられているような気持ちになるかもしれません。もし今、あなたがそんな言いようのない焦りや、静かな自己嫌悪に包まれているのなら。この記事は、そんなあなたのためにあります。
ここでは、「もっと頑張ろう」とか「来年こそは変わろう」といった前向きな言葉は一度横に置いておきます。むしろ、その「頑張れなさ」や「振り返りたくない気持ち」の中に、どのような大切な景色が広がっているのかを、一緒にゆっくりと眺めていければと思います。
2. 年末に焦りやすくなる理由:目に見えない「基準」との乖離
なぜ、年末になるとこれほどまでに心が落ち着かなくなるのでしょうか。そこには、私たちが無意識に背負わされている、現代特有の「心理的な枷(かせ)」があるようです。
「区切り」という名の強迫観念
私たちは幼い頃から、学期末や年度末といった「区切り」を意識して生きてきました。区切りがあるからこそ区ん張れるという側面もありますが、一方で、その区切りが「成果を報告しなければならない締め切り」のように機能してしまうことがあります。
たとえば、手帳の最後の方にある「今年の反省」という欄。真っ白なそのページを前にして、何か立派なことを書かなければいけない、という義務感に駆られたことはありませんか。仕事の進捗、年収の変化、身につけたスキル。それら目に見える数値や肩書きで自分を測ろうとする時、私たちの心は途端に窮屈になります。
本来、人の営みは、そんなに綺麗に12ヶ月単位で区切れるものではないはずです。3年かけてようやく芽が出ることもあれば、10年停滞してようやく見つかる答えもあります。しかし、暦という強力なシステムが、私たちに「一年の決算」を迫ってくるのです。
「何者か」である人たちとの距離感
年末は、同窓会や親戚の集まりなど、普段会わない人と接する機会が増える時期でもあります。そこで交わされる「最近どう?」という何気ない質問が、一番の毒に感じられることもあります。
「昇進した」「結婚した」「新しい趣味を始めた」。 そんな他人の変化を耳にするたびに、自分の手元にある「変わらない日常」が、まるで価値のないもののように見えてしまう。自分だけが同じ場所で足踏みをしていて、世界から置いていかれているような感覚。その焦燥感は、周囲との比較によって、より鮮明に、より鋭利に削り出されていきます。
「来年こそは、何者かにならなければ」 その思いが強くなればなるほど、今の自分への否定が深まっていきます。
SNSという「幸福の展示場」
今の時代、焦りの最大の供給源はスマートフォンの画面の中にあると言っても過言ではありません。タイムラインを流れる「今年のハイライト」の数々。
旅先での美しい夕日、仲間と囲む豪華な食卓、努力が報われた瞬間の笑顔。 私たちは、他人の「編集された最高の瞬間」の集合体と、自分の「編集されていない、冴えない日常」を無意識に比較してしまいます。
寝る前に布団の中でSNSを眺め、誰かの充実した一年を見届けてから、深い溜息をついて画面を閉じる。そんな夜を過ごしているのは、あなただけではありません。画面の向こう側の世界があまりにも光り輝いているために、自分の手元にあるささやかな平穏や、守り抜いた日常が、見落とされ、色褪せたものとして扱われてしまう。それは、とても寂しいことです。
3. 七命図的な視点:今は「整える時期」かもしれない
ここで、「七命図(しちめいず)」という考え方を、自分自身の状態を捉えるための「地図」として借りてみたいと思います。
これは、人生の成功や失敗を判定したり、未来を断定的に予言したりするものではありません。今の自分が、長い人生の道のりの中で、どのような空気の中にいて、どちらの方向から風が吹いているのか。それを客観的に眺めるための、ささやかな視点です。
「動く時期」と「整える時期」のバイオリズム
自然界に春夏秋冬があるように、人の一生や、もっと短いスパンの日常の中にも「季節」があります。 七命図的な視点で見ると、人生には大きく分けて「外に向かってエネルギーを放出し、目に見える変化を起こす時期(動)」と、「内側に意識を向け、静かにエネルギーを蓄えながら自分を整える時期(静)」があることがわかります。
もし、今のあなたがどうしても頑張れず、一年の振り返りさえ苦痛に感じているのなら。それはあなたが怠慢だからではなく、今のあなたが「整える時期」というバイオリズムの真っ只中にいるからかもしれません。
冬の森を想像してみてください。木々は葉を落とし、雪に覆われ、一見すると成長が止まったように、あるいは枯れてしまったように見えます。しかし、その土の下では、春に新しい芽を出すための準備、すなわち「休むこと」という最も重要な仕事が、着々と進められています。外側から動きが見えないだけで、命が止まっているわけではないのです。
立ち止まること=「遅れ」ではない
私たちは「止まること」を極端に恐れるように教育されてきました。「立ち止まっている間に、誰かに追い抜かれる」「止まったら二度と動けなくなる」。そんな恐怖が、常に背中を突いています。
しかし、七命図という地図を広げてみると、直線的に進むことだけが人生の歩み方ではないことが見えてきます。 らせん階段を登るように、同じ場所を回っているようでいて、実は少しずつ視点が変わっている。あるいは、深く深く潜ることで、自分の根っこを強固にしている。
今、あなたが立ち止まっていることは、決して「人生の遅れ」ではありません。それは、次に進むべき方向をじっくりと見極めるために、あるいは激しい社会の荒波の中で擦り切れてしまった心を修復するために、身体が求めている必要なプロセスなのです。
「今は、動かないことを選んでいる季節なのだ」 そうやって、自分を地図の上の特定の場所に置いてみるだけで、心の強張りが少しだけ、解けていかないでしょうか。
4. 動かない時間の価値:静寂の中で熟成されるもの
「何もしない時間」や「生産性のない時間」は、現代社会において、時に「無駄」や「悪」とさえ見なされることがあります。しかし、何もしない、あるいは頑張れない時間にしか育たないものが、確かに存在します。
考えが熟すための「空白」
美味しいお酒や味噌が、樽の中でじっと時間をかけて発酵するように、私たちの思考や感性もまた、静かな「寝かせる時間」を必要とします。
何かを必死に追いかけている時、私たちの視野は驚くほど狭くなります。効率や正解、他人からの評価を求めるあまり、自分自身の本当の願いや、心の小さな違和感を見落としてしまう。
頑張れない年末、ふと窓の外を眺めたり、ただぼーっと天井の木目を数えたりしている時。そんな「空白」の時間に、これまでバラバラだった記憶の欠片や、行き場を失っていた感情が結びつき、新しい気づきとして熟成されていくことがあります。それは、意識的に「振り返ろう」として得られる分析的な答えよりも、ずっと深く、あなたを支えてくれるはずです。
感情が元の場所に戻る時間
一年間、私たちはたくさんの感情を経験します。 理不尽な上司の言葉に飲み込んだ怒り、誰かの期待に応えようと無理をした疲れ、自分の至らなさに落ち込んだ夜。それらの感情は、忙しい日常の中では十分に処理されず、心の奥底に澱(おり)のように溜まっていきます。
年末に「動けない」と感じるのは、心が「もうこれ以上、新しい刺激を入れないで。まずは今の荷物を下ろさせて」と悲鳴を上げているサインかもしれません。 何もしない時間を過ごすことで、散らばっていた感情が少しずつ元の場所に収まり、自分という存在が再び統合されていく。それは、深海に潜るような、静かな癒やしの時間です。
「何もしない」という能動的な選択
もし、あなたが「今日は一日中、YouTubeを見て終わってしまった」とか「昼過ぎまで布団から出られなかった」と自分を責めているのなら、それを「一日、自分を休ませるという大事なメンテナンスを行った」と捉え直してみることはできないでしょうか。
頑張らないことは、消極的な逃避ではなく、自分を守るための能動的な選択になり得ます。 「今は、何もしないことが最も必要な時期なのだ」 そうやって自分を許容する余白こそが、次の季節を迎えるための、もっとも肥沃な土壌になります。
5. TikTokライブという「場」:空気の共有がもたらす安心感
年末の夜、ふと孤独感や所在なさを感じた時、スマートフォンの画面の向こうに、誰かのライブ配信が流れていることがあります。TikTokライブなどの配信のあり方を眺めていると、そこには現代人が求めている「場所」のヒントがあるように感じます。
成果や数字ではなく「ただ、そこにいる」こと
テレビ番組やYouTubeの動画は、多くの場合、入念に企画され、編集された「完成品」です。しかし、ライブ配信の魅力は、何かが達成されるプロセスを見ること以上に、その瞬間の「空気」を共有している感覚そのものにあります。
誰かがただ夜食を食べていたり、とりとめのない雑談をしていたり、あるいは時には無言で作業をしていたり。 そこには、明確な「成果」も「正解」も、ドラマチックな展開もありません。 「何者かにならなければならない」というプレッシャーの強い年末において、ただ「今、この時間を共有している誰かがいる」という事実は、驚くほど心を軽くしてくれることがあります。
話さなくても、見るだけでも成立する場
ライブ配信の良いところは、その場への参加の形が限りなく自由であることです。 積極的にコメントをして盛り上がる人もいれば、ただ画面の端でその様子をぼんやり眺めている人もいる。あるいは、スマホを枕元に置いて、声だけを聴きながら眠りにつく人もいる。
その場にいる誰からも、何も強要されません。 「何か意味のあることを言わなければならない」 「誰かと上手に関わらなければならない」 そんな、日常のコミュニケーションで私たちを縛り付けているルールから、一歩外に出られる場所。 ただ「そこにいるだけ」という存在の仕方が許されていることが、今の私たちの疲れをそっと受け止めてくれます。
年末にライブが開かれている意味
なぜ、多くの人が大晦日にライブを開き、そしてそれを数万人が眺めるのでしょうか。 それは、誰もがどこかで「一人でいるけれど、独りではない」という、ゆるやかな確認をしたいからかもしれません。
大勢で集まってカウントダウンをする元気はないけれど、静まり返った部屋で一人でいるのは少し寂しい。そんな時、画面越しに流れる誰かの声や、見知らぬ誰かのコメントは、心地よい「焚き火」のような役割を果たします。
その火を眺めている間だけは、自分が今年何を成し遂げたか、来年何をすべきかという問いから解放される。ただの「一人の人間」として、その場に溶け込んでいけるのです。
6. おわりに:安心して、そのままのあなたで冬を越す
ここまで読み進めてくださったあなたは、きっとこの一年、自分なりに、その時々のベストを尽くして生きてきた方なのだと思います。たとえ、その歩みが誰の目にも触れず、履歴書に書けるような成果になっていなかったとしても、あなたが今日まで自分の命を繋いできた。そのこと自体が、何物にも代えがたい、尊い事実です。
行動しなくていい、振り返らなくていい
「来年こそは、もっと立派な人間になろう」 「一月一日から、新しい自分に生まれ変わろう」
そんな風に思えるパワーがある時は、そうすればいい。でも、今はまだ、そんな気力が湧かないのなら、無理に目標を立てる必要も、無理に今年を総括する必要もありません。
真っ白な来年の手帳を前にして、ペンが動かない自分を責めないでください。空白のページは、あなたがこれからどんな色にも染まれる自由を持っている証であり、今のあなたが自分を休ませている証でもあります。
このままでいい、という余韻
外の世界がどれほど騒がしくても、お祭りのような賑やかさであっても、あなたの内側の時計は、あなただけのペースで刻まれています。
頑張れなかった自分。 焦ってしまう自分。 結局、何者にもなれなかった自分。
それらすべてを、無理にポジティブに変換しようとしたり、逆に否定したりせず、ただ「今は、こういう状態なんだな」と静かに眺めてみてください。 七命図という地図の上で、あなたは今、ただ「冬」という名前の、静かな休息のエリアに立っているだけです。
特別なことは何もいりません。 温かい飲み物を用意して、お気に入りの毛布にくるまって、ただ時間が過ぎるのを待つ。 それだけで、あなたの年末は、最高に贅沢で、意味のあるものになります。
どうぞ、安心してそのままのあなたで、新しい朝を迎えてください。 世界は、あなたが思っているよりもずっと優しく、あなたの「停滞」を許容してくれています。
次の一歩として: もし、今この瞬間に、胸のあたりが少しだけ軽くなったように感じられたなら、それを大切にしてください。振り返りをしない自分を、ほんの少しだけ「これでいいんだ」と思えたこと。それが、あなたにとっての今年最後の、そして最も優しい「自分への贈り物」かもしれません。
気が向いたら、スマートフォンの電源を少しの間だけ切って、暗い部屋で外の風の音に耳を澄ませてみませんか。何もしない、何も考えない。そんな「空白」の中に、あなただけの安らぎが見つかることを願っています。
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